映画「蘇れ生命の力」

先月、みそをつくる保育園の映画「いただきます」のことを書きましたが、今日それと対をなすような映画を観ました。ひとりの小児科医のドキュメンタリーです。一人の子どもを30分かけて診察するというその清貧の老医師、真弓定夫の、自然派などというくくりでは納まらない透徹した命への向き合い方を描いています。

「人間は他の四千種類の動物と同じようにヒトという動物です。野生の動物を見習いなさい」「動物は歯なんて磨きませんよ」「子どもの平熱が下がる傾向にある。37℃じゃ低すぎる」「せき、湿疹、鼻水......外に見える症状はすべて問題にしなくていい。それは身体が直すためにやっていることだから」「牛乳は牛の血液だから飲んではいけません」。言葉だけ並べるとかなり過激な思想に聞こえるかもしれませんが、ほとんど投薬せずに子どもの治癒力でなおす真弓医師の治療は評判を呼び、かつては5時間待ちで診察希望者者が列をなしたそうです。

映画では、この真弓医師が30年来園医として健診を行っている麦っ子畑保育園が取り上げられています。30年前に真弓医師がこの保育園ではじめて講演をして以来、その考え方に衝撃を受けた大島貴美子園長は給食を和食にし、牛乳も肉もやめ、できるだけ「四里四方(地元)」の旬の食材で子どもたちのごはんをつくっています。また真弓医師は「一物全体食」、つまり小魚のように一匹まるまる食べられるものがいいと言っていました。この話は「いただきます」にも出てきます。

真弓医師が話す言葉はみな含蓄があっておもしろいのですが、自身の臨死体験を紹介するくだりも興味深いシーンでした。中学校時代、死にかけて遊体離脱し天井から自分と周囲のさわぎを見おろしていたとき、人工物はすべて消えて、壁の向こうの景色が360度みえて「楽しかった」と語り、しまいには「死なんてない。目に見える身体は死ぬが、目に見えないものがすべてつながっていく」のでいつあちらに行ってもいいが、まだやるべき仕事がある、でもその仕事が何なのかは自分が決めるのではない、と言います。この一種の信仰的思考はかつての日本人がみな持っていたものだし、昭和20年以前の食生活の話をたびたび持ち出すことからも、昔の日本人の生活がわれわれの心や身体にはふさわしいということを言いたいのだということがわかります。これは「いただきます」の中で小泉武夫医師が言っていた、日本人の遺伝子は江戸時代までの2千年の食生活によってできているという言葉とも通じるものですね。

麦っ子畑保育園の大島園長が上映後に話をしてくれましたが、何かと特別視される自園について「麦っ子がまともで、まわりの保育園が変なんです」と言っていたのが印象的でした。

今回、鎌倉の数カ所での上映会はピヨピヨ保育園の保護者などの有志によって開催されています。月末までまだチャンスがあります。ぜひご覧ください。